半歌仙「探査ロボ」

7月7日、七夕の日に夏の連句会を行いました。

皆さんの都合を考えてこの日になったのですが、春も3月3日ひな祭りの日でしたし、今年はなぜかこういう日に縁があるみたいです(笑)。

 

さてこの日、集まった人で発句を考えはじめていたところ、ゆほさんからメールで遅刻の連絡がはいりました。

電車を乗り違えてしまったとのこと。その後、メールで送っていただいた発句が面白く、そちらを取らせていただき、脇には乗り違えてしまった悲しみを受けた句をつけました。

ロック、かかし、探査ロボ、台風となかなか面白い句が並んでいたところに、パンツの句。ここでかなり盛り上がりました。パンツから始まった恋の座が、時間の不思議さへと移り変わり、カルトをよんだ時事句に。そのあとの「置き去りの葱」とのつけ合いがたいへんよく、続く「覚悟のほどを問う寒月」も、なんに対する覚悟かはわからないけれど、とても良い句だなあ、と感じました。

その後も、父と息子から、息子の号泣が変化したかのような人穴、あの世とこの世をつなぐかのような花。最後、水とともに走るわたしの姿もうつくしく、心安さが滲み出たような良い一巻になりました。

連句も同じ連衆で何度も巻いていると、最初は他人だった人たちが次第に親しくなり、その人の背景をよく知らないまま打ち解けてきます。慣れない者同士で巻く緊張も良いですが、慣れた者同士で巻くのはやはり落ち着いていいなあ、と感じました。

 

半歌仙 探査ロボ  捌 ほしおさなえ 

 

夏空のずっと遠くに地下の駅      ゆほ
 かなしみ少し浮くソーダ水       さなえ
帰り道ロックばかりを歌ってて      雨水
 かかしの横でひとやすみする      しおね
月の砂拾い集める探査ロボ        J
 台風過ぎて何もない庭         なおこ
新しいパンツをヨメがディスる秋     やん
 眠れぬ夜のお守りは君         水色
時差あればふたつの時間内包す      ゆ
 クルクルまわる日めくりを見て     月
幕引けどカルトの闇は残りをり      水
 待合室に置き去りの葱         や
寒月が覚悟のほどを問うてくる      な
 卵酒飲む父の横顔          J
息子泣く「それでもやっぱりまだ子ども」 し
 大蛇出づと言いし人穴         月
生前も死後も花見をしておりぬ      ゆ
 はだら野かける水も私も        雨

 

2018年7月7日 於・ライフコミュニティ西馬込

 

半歌仙「カズオ・イシグロ」

1月6日、半歌仙を巻きました。

松の内ですので、発句は新年です。新年早々に集まって連句を巻く、ということはあまりないので、新年の句は新鮮でした。

「大吉を大盤振る舞い」というなんともおめでたく、はなやかな句からのスタート、犬の子を追いかけたり、焼印を押したり、月が人形のまぶたに沈んだり、どことなく音楽を感じさせる表六句となりました。

裏に入っても、ビスコッティから始まる恋の座、「おもちゃの国へ帰ります」「夏至の五限は休講にせよ」など、美しいイメージの句が続き、ピアノソナタ、カズオ・イシグロへ。この日はカズオ・イシグロの話題が何度も出て、そのたびに句にしようとしたものの、なかなか形にならず、ここで眼鏡が登場したことでようやくおさまったのでした。

名前から北海道の廃線へ、そして「足踏みして待つ」という、若さ、憧れ、焦燥を感じさせる素敵な花がつきました。

美しいイメージが音楽のように流れて行く、はなやかな一巻になりました。これもお正月の力でしょうか。

 

半歌仙 カズオ・イシグロ  捌・ほしおさなえ

 

大吉を大盤振る舞い初御籤    水色
 あちらこちらで揺れる繭玉    さなえ
犬の子を転がるように追いかけて  なおこ
 Pの焼印どら焼きに押す     亮
人形のまぶたの中に沈む月     胡桃子
 節くれた手で障子貼る父     な
栗爆ぜて童どこまで行ったやら   さ
 ビスコッティを君と分け合う   水
ていねいにあなたのパジャマ畳む朝 亮
 骨壷しんと日を浴びている    さ
夜中にはおもちゃの国へ帰ります  な
 夏至の五限は休講にせよ     亮
月涼しピアノソナタを聴きながら  水
 眼鏡を外すカズオ・イシグロ   亮
漢字では浮かばぬ名前並びをり   な
 北海道の廃線に春        さ
花冷えや足踏みしつつ待っている  胡
 雄雌のない蝶を探して      仝

 

2018年1月6日 於・ライフコミュニティ西馬込

半歌仙「秘密基地」

10月終わりに、秋の連句会を開きました。

秋、といってももう晩秋。ぎりぎり滑り込みです。

街のあちこちにハロウィンのカボチャが飾られている時期。

発句はたくさん出た中から、ひときわ光るハロウィンかぼちゃの句を選びました。

しかしこの句が面白すぎて、第三まで苦労してしまい、もっと無難な句を取ればよかったか、とちょっと不安に。

おばけかぼちゃが光ってしまったので、月をどうしよう、とも思いましたが、せっかく面白い句が出たのだから、と縁を信じて突き進みました。

四句目に光らない、けれどもやわらかく、新鮮な月が出て、そこからするする滑り出しました。

裏に入って、恋から時事句、サンタクロースまで、これまでにない雰囲気の句がたくさん出て、びっくりしたり笑ったり、、、

「湖に」から花までの三句も、怪しく不穏な感じから暖かさに趣を変えていく、緊張感のある連なりになりました。

終わってみると、これまでになかった斬新さがあるなあ、やはりおばけかぼちゃでよかったのだ、と感じました(笑)。

 

半歌仙 秘密基地  捌・ほしおさなえ

 

夕暮れにおばけかぼちゃの目が光る  水色
 霧に消え去る蝶タイの猫       さなえ
秋雨の音が眠りに落ちてきて      ゆほ
 抱えた膝は月に似た色        胡桃子
朝食の卵は「いっこ?」「にこ」と割る やん
 子どもの群れが傘ふりまわす     胡
唐突に京都の空に舞いたくて      月
 とろけた瞳、祭り、水飴       もん
「今日いいよ」ふたりで行った秘密基地 仝
 あのひとの名は思い出せない     太陽
リベラルの意味を訊ねる十六歳     水
 これがほんとの駆け込み乗車     ゆ
寒月は空家の窓に火を灯し       や
 ブレイク中のサンタクロース     月
湖に沈めるならば君かなあ       胡
 血はあたたかに次へ流れる      や
花びらは人の記憶のなかに散り     ゆ
 藤棚の下佇んでいる         太

 

2017年10月28日 於・池上会館